溺愛音感
もう一度、ヴァイオリンを構えれば、震えは止まっていた。
ほっとして軽く頷いてみせると、友野さんは笑みを消す。
彼が指揮棒を構えた瞬間、団員たちの顔つきが変わり、空気が変わる。
(うわっ……)
久しぶりに、ダイレクトに響く様々な音の奔流に圧倒される。
後ずさりしそうになるのをどうにか踏み止まり、焦らず、たっぷり時間をかけて昇りつめた。
オーケストラとはほんの少しずつズレているが、いずれ合うと信じ、止まることなく先へ先へと進む。
止まってしまえば、そこで終わるから。
だから、全力で弾く。
わたしがどう弾きたいのかを彼らに伝えるために。
一度味わったら、忘れられなくなる瞬間――ひとりでは味わえない瞬間のために。