溺愛音感


「生まれた時から青田買いまがいのことをしようとする輩は、引きも切らなかった」


子どもの頃からお見合いを繰り返し、しかも襲われかけたなんて、トラウマになって当然だ。


「ちなみに、その逆もしないことにしている。俺が作った料理を食べて、体調を崩しただの病気になっただのと言われては面倒だからな。家族や親しい友人以外には食べさせない。例外は……ハナだけだ」


まさかそこまで特別待遇だったとは思いもよらず、ぽかんとしてしまう。


「どう、して……わたし?」

「どうしてだと思う?」

「…………」


じっとわたしを見つめるアンバーの瞳に揺れるのは、からかいの色ではなかった。

何か、大事なことを訴えかけているように見える。


(何が……言いたいの? どんな答えを求めているの?)


正しい答えがわからずに、何も言えないまま、見つめ返すことしかできない。

時間にすれば一分も経っていないだろう。
それなのに、長い間見つめ合っていたような心地がした。


「ハナ。冷める前に、食べろ」


結局、黙ったままのわたしにしびれを切らしたのか、マキくんは手つかずのわたしの皿を目で示した。


「うん……」

「ひとりで食べられないなら、食べさせてやろうか?」


気になって、それどころではないと言いたいところだったが、マキくんがスプーンに載せたカレーを差し出そうとするので慌てて首を振る。


「ううんっ! だ、大丈夫!」


急ぎ、自分で自分のスプーンにカレーとごはんを載せ、口へ放り込み……目を見開いてしまった。


(うわ……昨日とちがって……)

「すっごく、美味しい……」


さんざん食べ慣れた味のはずが、何倍も美味しく感じた。


「ああ、同感だ。おかわりしてもいいか?」

「も、もちろん!」


あっという間に完食し、二巡目に取り掛かるマキくんと二人、パクパクとカレーを食べながら、どうしてより美味しく感じるのだろうと首を傾げる。


(材料も、作り方もレシピどおり。練習と同じなのに。ちがうことと言えば……)


その理由に思い当たり、はっとする。



練習の時とちがうのは……、

向かい合って食べるひと――マキくんがいる。


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