溺愛音感


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晩ごはんを食べた後、一週間ぶりにシャンプー(拷問)された。

マキくんは、宣言どおりにわたしのありとあらゆる場所を念入りに洗い、ジャグジーでしばしまったりし、パウダールームでわたしの髪をドライヤーで乾かしながら……ご満悦の様子だ。

一方のわたしは、恥ずかしすぎる体験を忘れようと、抹茶せんべいの数を数え続けている。


(抹茶せんべいが……百二十五枚………抹茶せんべいが、百二十六枚……)


「この手触り、癒されるな……」

(わたしは癒されないんだけど……)


髪を乾かしてもらうのは、好きだ。
大きな手でかき回され、手ぐしで梳かれる感触は心地いい。

ついうっとりして、目を閉じてしまいそうだ。


「よし、こんなものだな」


しっかりわたしの髪を乾かし、ブラッシングして、ようやくマキくんの癒しタイムは終了。

ほうじ茶と共に、念願の抹茶せんべいにありついた。


(抹茶のほろ苦さと砂糖の甘さが絶妙! なんちゃっておせんべいかと思いきや、歯ごたえもちゃんとある……)


薄めのおせんべいはあっさりした味わいで、何枚でも食べられそうだ。


(でも、さすがに三十枚を一気に……は、食べ過ぎ。だよね? それに、一日で食べちゃうなんてもったいないし……)


渋々十枚目で手を止めて、ほうじ茶を啜る。


「もう満足したのか? ハナ。残りはいらな……」

「いるっ! 明日と明後日のお楽しみに取って置くのっ!」


並んでソファーに座っていたマキくんが横から手を伸ばしたので、抹茶せんべいの箱を胸に抱えて死守した。

マキくんは、必死なわたしに呆れ顔だ。


「そんなに気に入ったなら、伝手を使って手に入れてやろうか?」

「伝手?」

「昨年オープンした△△堂の本店併設のカフェは、インテリアを『KOKONOE』で引き受けたんだ。あちらの社長とは面識がある」

「そう、なんだ……」

「今後、支店に併設するカフェも任せてもらえることになったし、頼めば融通を効かせてくれるだろう」


さすが社長。
いろんなところに知り合いがいる。

限定三十個のおせんべいが簡単に手に入るなんて、すごい。


「でも……」


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