溺愛音感
「…………」
「どうした? ごほうびが欲しくないのか?」
「……いらない」
むっとして渡そうとしていたそら豆を引っ込める。
「ハナ……機嫌が悪いのか?」
「……悪くない」
「じゃあ、どうしてそっぽを向くんだっ!」
問い詰めるマキくんは、背後からわたしのお腹に腕を回して引き寄せた。
「ぎゃっ……ちょ、マキくん! そら豆が落ちるでしょっ!」
手にしたお皿を死守しながら叱りつけると、マキくんは悲壮な顔つきで叫んだ。
「俺とそら豆とどっちが大事なんだっ!」
呆れながらも、正直に答えた。
「そら豆だけど」
(この状況で、比べるまでもないよね? だって、そら豆焼きたてだし。食べ頃だし)
そもそも、そら豆相手に嫉妬するなど、どうかしている。
「そら豆、だと……?」
茫然とした様子で呟いたマキくんは、怒り狂うかと思いきや、がっくり項垂れ、わたしに思い切り寄りかかる。
「……ハナが冷たい」
「ちょ、マキくん、重い!」
ぽつりと呟いたマキくんは、ズルズルとわたしの背中を滑り落ち、そのまま畳の上に蹲った。
「え。マキくんっ!?」
心配になって覗き込むと……安らかな寝息が聞こえてきた。
(ね、寝てる……。信じられない……っていうか、マキくんも酔っ払うんだ)
これまで、マキくんが酔っ払う姿も、寝落ちする姿も見たことがなかったので、ウワバミのように飲める人だと思っていたが……ちがったらしい。
「あらあら……柾さんが日本酒には弱いと知っていて、だいぶ飲ませましたね? 松太郎さん」
空になった一升瓶を手にし、しかめ面をする志摩子さんに、松太郎さんはにやりと笑う。
「三十五にもなって、自分の限度を超えて飲むヤツが悪い」
「何を企んでるんです? 松太郎さん」
「人聞きの悪い。何も企んでなどおらんよ、志摩子さん。ただ、ハナちゃんとゆっくり話したかっただけだ。ハナちゃん、柾の子どもの頃のことを知りたくないかね?」
松太郎さんのお誘いは、かなり魅力的だ。
過去は、本人から聞くべし……という雪柳さんの言葉がチラリと脳裏を過ったが、松太郎さんはマキくんの家族なのだから、嘘や悪意あるでたらめを言ったりはしないだろう。
「……知りたい……見たいです」
「写真などは、母屋の書斎に置いてあるんだよ。志摩子さん、柾を頼む」
「はいはい、承知いたしました」