溺愛音感
漫才のような二人の遣り取りを聴くこと十五分。
閑静な住宅街にある、三輪さんのお宅に到着した。
二世帯住宅のような造りの一戸建てだが、ご夫婦二人きりの暮らしで、二つある玄関のうち左手はレッスンに訪れる生徒さん用、右手が自宅用とのこと。
レッスン室は自宅部分からも行き来ができるということで、自宅用の玄関からお邪魔する。
外観から受けたおしゃれな印象を裏切ることなく、姿見やコートハンガー、傘立てに至るまでアンティーク調で統一されていて、リビングの家具も同様だった。
「すてきな家具ですね。輸入物ですか?」
「ちがうよ。うちのインテリアは全部『KOKONOE』のものだよ」
「え?」
「奥さんが、インテリアマニアでね。特に『KOKONOE』のファンなんだ。気に入った新商品があると家具ごと模様替えする」
(家具ごと……なんてセレブな……)
「もちろん、僕も『KOKONOE』の家具を気に入ってるよ。デザインだけでなく、質がいいし、コーディネートの相談もできて、営業担当の対応もきめ細やか。アフターサービスまで充実しているからね」
『KOKONOE』が大企業であることは知っていたが、具体的にどんなものを作っているのかまでは、知らなかった。
家やインテリアとは縁のない暮らしが長かったので、そのあたりの知識も興味も皆無だ。
それでも、マキくんが『KOKONOE』という会社を大事に思っているのは、わかる。
そうでなければ、毎日遅くまで働いたりはしないだろう。
「ハナちゃん。定期的にここに来れば、『KOKONOE』のショールームにいる気分になれるよ」
友野先生の言葉に、三輪さんも「あながち、まちがっていない」と苦笑いしている。
「マキくんが聞いたら、きっと喜びます」
「うん。これからも、夫婦共々『KOKONOE』ファンでいますからって、お伝えしてくれるかな?」
「はい!」
「ええと……本題に入る前に、まず一服してもいいですか? 師匠」
「うん、友野くん、お願い。ブランデー、といきたいところだけど、紅茶でいいかな? ハナちゃん」
「はい」
友野先生は、勝手知ったる様子でキッチンに立ち、美味しい紅茶を淹れてくれた。
リビングのソファーで紅茶を飲みながら、最近発売されたCDや注目されているコンサートの話などをし、リラックスしたところで三輪さんが立ち上がった。
「さてと……そろそろレッスン室へ移動しようか」
「は、はいっ」
途端に緊張して飛び上がったわたしに、三輪さんと友野先生が噴き出す。
「そんなに緊張しないで、ハナちゃん」
「そうそう、取って食ったりはしないからさ」
「はい……」