溺愛音感


「わ、たし?」

「ハナと過ごす時間を確保したいのにできなくて、それならせめて寝顔だけでも拝み、温もりだけでも感じたくて、無理をしてでも帰りたかったんだと思うぞ。だから、二、三日、ゆっくりハナと過ごせば、あっという間に元気になるはずだ」


立見さんの優しい笑みを見て、唐突に我慢していたものが込み上げ、溢れた。


「わ、たしっ……いつも、ま、マキくんを待ってられなくってっ……自分のことしか考えられなくって……ぜんぜん、役に立てなくて……あの、ひとが、ったみたいに、代わりになんか……なれなくって……」

「落ち着け、ハナ。何を言ってるのか、ぜんぜんわからん」


ティッシュを手に押し付けられて、鼻をかみ、深呼吸する。


「で?」

「……ま、マキくん、に、何かあったらどうしようって……こわ、怖かった……」

「そうだな。大事な人が倒れて、気が動転するのは当たり前だ」

「ま、マキくんが具合悪いの、ぜんぜん気づかなかった。わたし……」

「ほとんど顔も合せていなかったんじゃないのか? しかたないだろ」

「でもっ」

「過ぎたことはどうしようもない。柾の看病をして、元気になってもらえるように、ハナにできることをすればいいだけだ」

「わたしにできること……?」

「水を飲ませたり、汗をかいた身体を拭いたり、食べるものを用意したり……やれることはたくさんあるだろう? それで、柾が元気になったら、俺様が計画済みにちがいない休暇のプランに付き合ってやればいい」

「うん……」

「ということで、柾のことは心配いらない。大丈夫だ。でも……中村の言ったこと、気にするなと言っても気になるよな?」


マキくんの気持ちはマキくんに確かめるのが大前提だが、『久木 瑠夏』と中村さんにどんなつながりがあるのかは、知っておきたかった。

< 230 / 364 >

この作品をシェア

pagetop