溺愛音感
「はい」
「中村との関係も、気になるよな? 柾の大学の後輩だってことは知ってるか?」
「はい」
「俺も同じ大学だったから、柾経由で中村と知り合いなんだが、アイツの高校時代の友人が柾の元カノだったんだ」
「そのひと……元カノ、『久木 瑠夏』ってひとですか?」
わたしが名前を挙げると、立見さんは目を瞠った。
「久木のこと、知っていたのか?」
「知っていた、というか……知り合いが彼女にヴァイオリンを教えたことがあって、それで……つい最近、色々と……一年前に亡くなったことも、聞きました」
「じゃあ、柾が彼女の伴奏をしていたのも知ってるんだな?」
「はい。一度だけ、DVDで二人が演奏しているのを見ました」
「……そうかぁ」
立見さんはしばらく考え込んでいたが、ふうっと大きく息を吐いた。
「本来、柾の口から説明するのが一番いいんだが、この状態だと訊けないだろう? 中途半端な状況で何日も過ごすのは、ハナにとってストレスになるし、知っているのに俺が黙っていることで二人がギクシャクするなら本末転倒だ。取り敢えず話せるところまで話す。それでいいか?」
マキくんの許可を得ずに、マキくんの過去を知るのは、いいことではないと思う気持ちは拭えない。
でも、中村さんからぶつけられた言葉の数々を忘れ、何事もなかったかのような顔でマキくんと接するのは無理だと思った。