溺愛音感
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ちょっと駅から離れた郊外にある高級住宅地。
その中でも、ひときわ広大な土地を有する白亜の豪邸が、女帝の城だ。
駅までは電車、駅からは奮発してタクシーを使い、電話が架かってきてから四十五分という短時間で辿り着いた。
が、広い玄関で仁王立ちになって出迎えた女帝(母)は、ひと言。
「遅い。一時間も待ったわ!」
(一時間じゃなくて、四十五分! しかも、メチャクチャ急いだから! 普通は、マキくんのマンションからだと一時間以上かかるから!)
心の中で思い切り反論したが、女帝の機嫌を損ねる危険を冒したくなかった。
「……ごめんなさい」
「柾さんから聞いたわ。少しは、まともに弾けるようになったみたいね?」
「え、うん……」
いつの間に、連絡を取り合っていたのか。
そんな気配を微塵も感じなかった。
「それで、N市民交響楽団のお手伝いもしてるんですって?」
「う、うん。練習の手伝いだけど」
「で、どうなの? オケは。友野くんが指揮しているなら、アマチュアでもそれなりだと思うけれど」
「どうって……プロに比べれば粗は目立つけど、いいオケだと思う」
「そう。じゃあ、出演依頼受けようかしら」
「えっ」
「あら。聞いてないの? 定演に出てほしいと言われてるのよ。同じN市民のよしみでね」
「…………」
まさか、美湖ちゃんが言っていた出演を打診している大物ピアニストが女帝(母)だとは思ってもみなかった。
娘であるわたしが言うのもなんだけれど、『榊 音羽』といえば世界の名だたるオーケストラとの共演を重ね、クラシック業界で知らぬ人はいない超一流ピアニスト。
歯に衣着せぬ物言いが気持ちいいと人気で、テレビやラジオにゲストとして呼ばれることも多々あるし、自身のコンサートのチケットは常に完売。オークションでもいいから手に入れたいと願うファンもいるほど。
アマチュアのオーケストラとの共演なんて、あり得ない人だ。
「まあ、受けるとしても……条件を付けるつもりだけれど」
「条件?」