溺愛音感
電話やインターネット、通信手段があれば世界中どこにいたって繋がることはできる。
けれど、触れ合える距離でしかわからないこともある。
目には見えない、耳では聞き取れないものがある。
言葉だけでは、伝えきれないものがある。
マキくんの言うように『物理的な距離と心の距離は比例する』のかもしれない。
でも、そうはならないようにする方法だってあるはずだ。
それをどうにかして見つけ出し、証明したい。
(どうすれば……マキくんに、信じて、安心してもらえるのかな……)
これまで、付き合った相手は和樹一人。
遠距離恋愛の経験もないわたしには、こういう時にどうすべきか、まったくわからなかった。
はぁ、と再び溜息を吐いた時、アイスグリーンティーが運ばれて来た。
ひと口飲んで、あまりの美味しさに目を瞠る。
美しいエメラルドグリーンの液体は、まろやかな口あたりで、甘味すら感じる逸品だった。
(コレ、ぜひともおせんべいと一緒に味わいたい! おせんべい、おせんべい……)
鞄の中には、個包装のおせんべいを常備している。
こっそり食べてもバレないかも……と取り出した袋をそっと開けて齧りつこうとした時、隣の席に新たな客が案内される気配を感じ、あんぐりと口を開けたまま止まった。
バリバリとおせんべいを噛み砕く音がしたら、何事かと思われるだろう。
(ああ、ぬれおかき持って来るんだった。コレ、おせんべいとセットで提供すべきでしょ……)
渋々諦めて、おせんべいを袋へ戻した。
「あら。ここから公園が見えるのね。すてきな借景。ここ、よく使うの?」
「夏は、よく利用するな。見ているだけで涼しい気分になれるし、人の目を気にしなくていいから、使い勝手がいい」
隣から聞こえて来たのは、朗らかな女性の声。きれいなソプラノだ。
対する男性の声はテナー。しかも、聞き覚えがある響きだった。
(マキくんの声に似てるけど……まさかね。声が似ている人は、いくらでもいるだろうし)
数少ない知人友人に、バッタリ行きあう可能性の方が低いと笑い飛ばしかけた次の瞬間、凍り付く。
「柾さんのことだから、会話が弾みそうもない相手を連れてくるんでしょう? 庭の話で、場を繋げるものね」
(ま、柾……って、本当にマキくんっ!?)