溺愛音感


音羽さんと頷き合い、弾むような音を連ねていく。

軽やかで明るいメロディーは、中間部で一転する。
激しく、どこか物悲しく、胸を突く音の連なり。
けれど、それは長く続かず、再び明るさを取り戻す。

この曲が好きだったという彼女の本心を、彼女自身の言葉で確かめることはもうできない。

けれど、

辛く、哀しいことがあっても、それは一時のこと。
乗り越え、進み続けたその先には、幸福な日々が待っている。

そう信じて、大好きなヴァイオリンを弾き続けていたのだと思いたい。


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