溺愛音感
目を見開くお義父さんは、そんな顔もマキくんにそっくりだ。
「……つまり、ハナさんは妊娠しているのかな?」
さすが年の功。
一瞬で立ち直り、声を潜めてわたしの耳に囁く。
「たぶん」
「柾には?」
「ま、まだ、話してません」
「それ、僕が最初に聞いてもよかったのかな? いや、よくないよね」
「…………」
二人で、しばし黙り込む。
先に口を開いたのは、お義父さんだ。
「椿の時のことを思い出す限り、柾ならまちがいなく子どもを溺愛して、ドロドロに甘やかすだろうねぇ。女の子だったら、きっと一生傍に置いて離さないよ」
「……そう思います」
「自分から言い出すことはないだろうけれど……許されることなら、育児休暇を取りたいだろうね。それが無理でも、できる限り育児に参加したいだろうねぇ」
「だと思います」
「いつもなら頼りにできる雪柳くんも、椿が妊娠しているし、難しいか……」
「はい」
わたしが言いたかったことをようやく汲み取ってくれたお義父さんは、小さく溜息を吐いた。
「柾が素直に僕の力を借りるとは思えないんだけど」
「でも、マキくんは、お義父さんのほかには誰も頼りにはできないと思います」
「でも僕、実家も出禁になっているんだよ」
「それは、わたしが何とかします」
「ハナさんが?」
「マキくんに、松太郎さんと一緒に住むことを提案するつもりなんです」