溺愛音感
完璧に未来を見通すことなんて不可能だ。
誰も通ったことのない、初めて辿る道の行き先を知ることはできない。
でも、いつだって帰れる場所があると思えば踏み出せる。
わたしがずっとほしかったのは、形だけの「家」ではない。
そこに住まう人をひっくるめての「家」だった。
マキくんがいて。
松太郎さんがいて、志摩子さんがいて。
時にはお義父さんがいて。
時にはお義母さんがいて。
椿さんや雪柳さんがいて。
彼らの子どもとわたしたちの子どもがいて。
音羽さんが遊びに来ることもあって。
温かくて。
いつでも音楽が傍にある。
そんな場所を作りたい。
きっとマキくんもわたしも、そこで幸せに過ごせるから。
マキくんが幸せなら、わたしは一生、彼のためにヴァイオリンを弾き続けていられるはずだから。