カラダで結ばれた契約夫婦~敏腕社長の新妻は今夜も愛に溺れる~
「痛っ……」

倒れかかったところで、北村に身体がぶつかってなんとか転ばずに済んだ。

だが、顔を上げてみると見たこともない形相をした北村がいて。

「あんたがいなくなったせいで、俺が鞠花のストレスの捌け口になってるんだ。ひとりだけうまく逃げやがって」

恨みのこもった声をかけられ、恐怖心が湧き上がってくる。

手首を強く掴まれて骨がギリギリと締め付けられた。このまま腕をへし折られてしまうんじゃないかと怖くなる。

「……北村くんだって、鞠花から離れればいいじゃない。どうしてずっとそばにいるの?」

「俺はお前と違って、あいつに借金があるんだよ」

鞠花からお金を受け取っているとは知っていたが、借金だったなんて……!

でも、そのお金で北村は旅行へ行ったり、車を買ったり、好き勝手していたはずだ。とても同情はできなかった。

「離して……!」

北村の手を振り払い、清良は逃げ出した。駅まで振り返ることなくひたすら走り、身を隠すように人混みに紛れた。

やってきた電車に飛び乗り、きょろきょろと辺りを見回す。北村がいないことに安堵して、ふう、と息を吐いた。

気が付けば大きく肩が上下するくらい呼吸が荒くなっている。走ったこともあるけれど、北村への恐怖心で息が上がってしまっていた。

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