デラシネ
「ねえ、明日休み」
「だから何だよ」
それだけ言って口を閉ざす彼女。次の日が休みの時にしかここに来ないことを俺は知っている。そしていつもこの先に言葉を繋げないことも。
彼女と過ごす時間はゆっくりと流れる。走ったり歩いたりしている彼女に、置いて行かれないよう必死に追いかける俺だった。でも今は同じ歩幅で歩けているようなそんな勘違いをしてしまいそうになる。
「ご馳走様でした、今日も温かい料理たちをありがとう」
「どういたしまして」
彼女は食事を終わらせるといつもそう言う。「ご馳走様でした、ありがとう」たったそれだけかもしれないが、その言葉の奥には彼女の様々な思いが詰め込まれていると俺は感じている。
毎日温かい料理を食べることが当たり前だった俺。彼女に出会って、料理を作ってもらえること、おいしいと感じて食事することができること、それがどんなに幸せなことか気づかされた。
不意に時計を見ると針はまっすぐ上を指していた。店内の客も先ほど全員帰られた。そろそろ閉めよう。
「もう閉める」
「そうか」
「帰り送る」
「いや、歩いて帰るよ。問題ない」