捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「きみはやさしすぎるから自分のことは後回しにするんだろう。でも、そんな必要はない。真希がそれをつい忘れてしまうなら、俺が何度でも言うよ」

 大きな手がするっと髪を滑り落ち、頬で止まると真剣な面持ちで両眼を覗き込まれる。

「俺がほしいのは真希がいる未来だ。真希と理玖とみんなで笑って暮らす日々だけ。それ以外はなにもいらない」
「みんなで……」
「ひとりになったあと……しんどかった。あれ以上のつらさはない。もしこれから苦しいことが待っていると言われても、俺はきみと一緒にいるほうを選ぶ」

 拓馬さんの至極熱い眼差しに、私の暗く翳っていた心に熱が灯る。

「それに、俺たちのことを憶測でものを言われたり好奇の目を向けられたりしても、数年先にはそれらが間違いだったって言わせられる自信がある。真希と理玖が一番大切なのは事実で変わらないから」

 私は守るべき人ができてから臆病になったみたいだ。けれど、守りたい人を得た彼はどこまでも揺らがず、強靭な精神を持っている。

 ずっと理玖には後ろめたい気持ちが消えなかった。

 いつか『強くてかっこいいお父さん』を想像しては、あきらめさせると思っていたから。

「どんなに美味しい料理も、ひとりで食べたら味気ない。大切な人と囲む食卓に勝るものはない、と俺に教えてくれたのはきみだよ、真希」

 自分でも知らぬ間に頬を濡らしていた。拓馬さんは雫が通った道を親指でそっと拭い、微笑を浮かべる。

「真希も俺と同じ気持ちだとうれしいんだけど」

 彼が懸命に言葉にした想いに、私の想いが重なる。

「私も一緒です」

 日々を無難にやり過ごすのはやめて、幸せな未来を迎えるために、いばらの道をも越えていく。

 私は拓馬さんのたくましい背中に両手を回したあと、くすっと笑いを零した。
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