捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「実はふたりが別れる前後から、少し様子を探っていたんだ。相手の女性はちょっとめずらしい性格だと風の噂で聞いていたのもあって、直接会いに行ってみた」
「え! あの日、そのためだけにいらしてたんですか? 会えるかもわからなかったのに……」
「なんとなく会える気がしたんだよ。現に会えた」

 唖然としていたらお祖父様の表情が威厳のあるものに一変し、背筋が伸びた。
 凛とした口調で言い放つ。

「しっかりとしたお嬢さんだ。拓馬の良き伴侶となるだろう。拓馬もきっと、期待以上の経営者になる。守るべき家族がいると男は強くなれるものだからな」
「いや、しかし! せっかくならもっと都合のいい相手を……」

 お祖父様はお父様の言葉にため息を零し、軽く頭を横に振る。

「お前をそんなふうに育ててしまって……心から詫びるよ、冴子さん」

 一斉にお祖父様の視線の先へ顔を向ける。
 半分開いた襖の奥には、さっき挨拶を交わした拓馬さんのお母様が立っていた。

 彼女は突然自分に話題を振られ、一瞬驚いた目をしていたが、すぐに落ち着きを取り戻したようだった。
 おもむろに睫毛を伏せ、襖を閉めて客間に入って答えた。

「いえ。どうかお気になさらないでください。おかげさまで仕事に専念させていただいておりますので」
「愚息に何度も愛想を尽かしただろうに。前を向いて歩む冴子さんのおかげで、今の息子がある。さらに、孫はとても優秀でやさしい子に育った」
「お言葉ですが! わたしと冴子の結婚は双方の事業に大きな利益をもたらしました。それのどこが問題で?」

 ふたりの会話にすぐさま割り込んだのはお父様だ。

 家族関係はどうなのか、私は知らない。
 それでも、今見聞きしたそれぞれの会話、表情などでなんとなく察する。

 おそらく、拓馬さんのご両親は政略結婚で、お父様は家庭を顧みずに仕事ばかりしていた人なんだろう。
 傷ついたお母様を陰で支えていたのが、お祖父様と……もしかしたら、亡きお祖母様だったのかもしれない。

 私が黙って立っていたら、拓馬さんが私の真横に歩み寄って口を開く。
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