捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「金木犀も剪定して風通しをよくしなければ、来年またいい花を咲かせないからなあ」

 お祖父様は障子の奥に焦点を当てながら、にこやかに話した。
 私はまだ頭が追いつかず、黙って様子を見ていた。

「話をすり替えないでください!」

 鼻息を荒くして抗議するのは、やっぱりお父様だ。けれども、お祖父様は一瞥するだけで涼しい顔をしている。
 そのあと、障子のそばまで歩いていき、おもむろに障子を引いた。

「なにも話を変えてなんかいない。私たちも風通しをよくしようと言っている」
「は……」
「組織と同様、家族にだって新しい風が必要だ。この先、立派な実をつけるために」

 戸惑うお父様をよそに、お祖父様は私たちに背を向け、庭を眺めてしっかりとした声色でそう答えた。

 私は後ろ姿をじっと見つめ、ふと思い出す。

「あなたは……前に山梨の施設で会った……?」

 窓の奥には微かに見える金木犀。
 あの日、出会った老人の記憶を懸命に手繰り寄せる。

「え? 真希、どういうことだ?」
「〝真実〟――。金木犀のもうひとつの花言葉だ」

 そうして、お祖父様は私のほうを振り返り、莞爾として笑った。

「この子の目は見れば真実を言っていることくらい一目瞭然。そのくらいわからないなんて会社のほうも些か心配になるぞ、忠志(ただし)

 お父様はなにも言わず、悔し気に唇を噛んでいる。

「真希、説明してくれないか。きみとお祖父様は知り合いだったのか?」
「あ、知り合いというか……一か月前に、山梨の職場でたまたまお会いしたんです」
「山梨で? なぜ……」

 なぜかは私にもわからない。

 私たちは同時にお祖父様に目を向ける。
< 128 / 144 >

この作品をシェア

pagetop