捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「いいの? じゃあお言葉に甘えて」
「は、はい。もちろんです」
私は素早く自分のメインディッシュであるフリットをひと通り取り分けると、彼は「ありがとう」と微笑んだ。
「さあ、食べようか」
「そうですね。いただきます」
彼に促され、両手を合わせてからランチプレートと向き合う。アスパラのフリットに箸を近づけながら、ぽつりと言った。
「佐渡谷さんはこういうの、嫌なタイプじゃないんですね」
「ん?」
「ほ、ほら! シェアすることに抵抗ある人もいますから!」
男女問わず、そういう行為を好まない人はいると知っている。現に光汰がそういうタイプだった。
光汰は基本的に、自分のものは自分のものというスタンスだったから。
別にそれに対して苛立つわけじゃない。人それぞれの価値観だ。
私も自分の考えを押し付けようとは思わなかったし。
ただ、同じ年頃で身近な男の人は光汰くらいしかいなかったせいもあって、男性はそういうものなのかなって無意識に思い込んでいたのかもしれない。
下を見ていても、向かいから彼の視線を感じる。それが妙にドキドキした。
「俺は気にならないよ」
彼の答え方は別に普通だったはずなのに、どうも光汰と比べた発言だってことを見透かされていた気がして落ち着かない。
そろりと佐渡谷さんを見れば、ニコッと笑いかけられる。私が動揺しているのさえも察しているようなタイミングで、彼は睫毛を伏せて食事を続けた。
「佐渡谷さんって、お食事の仕方がとても綺麗」
まだ自分はひと口も食べもせず、佐渡谷さんをぼんやり瞳に映して無意識に漏らした。
「そんなこと初めて言われた」
佐渡谷さんは顔を横に向けて可笑しそうに笑いをかみ殺す。
「し、親切で作法もきちんとしていて! 完璧な人ですね」
私が間を埋めるべく、つい必死に言葉を並べ立てると、彼はふいに横目で私を捕らえた。そして、苦笑してフォークで雑穀米を掬う。
「そうでもない。実はこういう豆類は得意じゃないんだ」
私はぽかんとして、フォークの上に乗った雑穀米を見た。
「そうだったんですか。確かに男性はあまり雑穀米を好まないイメージありますね」
「いい歳して好き嫌いなんて恥ずかしいだろう」
「まあ、嫌いなものだけお皿の隅によけるのは見栄えはよくありませんけれど……だからって、無理しなくてもいいと私は思うんです」
今度は私も箸で自分のプレートから黒豆を摘まみ上げる。
「たとえば、この黒豆。カルシウムやたんぱく質が豊富に含まれてますが、どうしても無理なら別の食材で栄養を摂取すればいいんですよ。乳製品やブロッコリーからでもいいわけですし」
ぺらぺらと話をし終えてから、ハッとする。
「あ……。なんか職業病みたいに……長々話しちゃいましたね。ごめんなさい」
「はは。謝る必要はないよ。さて、宇川さんの休憩時間ももう少ないだろうし、食べようか」
そうして、私はまた彼の破顔に目を奪われつつ、いつもよりも上品に食事をした。