捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
『それはついでで、本題はこれから。宇川さん、次の休みっていつ?』
「休み……ですか?」
『うん。土曜とか日曜はやっぱり仕事?』

 ぽんぽんと質問を重ねられ、頭の中はパニック状態。

 私の休日を聞いてくるなんて、まさか佐渡谷さんは本当に私とまた会いたいと思ってくれてるの? その全然理由が浮かばない。

『宇川さん?』
「あっ、す、すみません! そうですね。基本的に土日祝日は仕事です。次の休みは明後日から連休で……」

 正座でピンと背筋を伸ばし、壁にかけてあるカレンダーを見て答えた。
 明後日とその次の日と印がついている。久しぶりの連休だ。

『予定は? 空いてる?』
「ええ……特になにも入っていませんけれど」
『じゃあ明後日の夜、空けておいて。また一緒に食事しよう』

 佐渡谷さんの誘いを受け、今度は頭の中が真っ白になる。
 落ち着きなく視線を彷徨わせ、ぽつりとつぶやいた。

「食事……」

 それって、当然ふたりで……だよね? まるでデートみたいに……。

 考えれば考えるほど緊張と高揚とで顔が熱くなる。ここまで来ると、意識するなっていうほうが無理。

『当日また連絡するよ』
「はっ、はい」

 耳に優しい声が届き、慌てて返事をしたら声が裏返った。

 もう恥ずかしくてどうにかなりそう。私がいっぱいいっぱいだって、電話口でも絶対気づかれてる。

 私は自分の服の裾をぎゅうっと握りしめ、早く時間が経つのをひたすら願う。

 固く目を閉じた、そのとき。

『楽しみだ』

 佐渡谷さんの言葉は、同時に電話の向こうで微笑む彼の姿が目に浮かんだ。

 勘違いかもしれない。だけど、今の声音はすごく温かく、胸が弾んでいたようなものだったから。

 私は堪らず袖口で緩みそうな口元を覆い、ときめく鼓動に抵抗した。

 ――変だ。こんな知り合ったばかりの相手に心が動くなんて。

 胸の内で何度も『落ち着け』と繰り返す。しかし、彼が次になにを言うかと考えるとドキドキが止まらない。
 悟られないよう、すうっと大きく息を吸い込んだ直後、佐渡谷さんが話し出す。

『あ、そうだ。今日もらった焼き菓子、おいしかったよ。ごちそうさま』

 当たり障りない話題になった安堵感で、私はどうにか反応できた。

「本当ですか? それならよかったです」
『うん。きみの同僚にもそう伝えておいて。ああ、もう十二時になりそうだ。遅い時間に電話してすまなかった。おやすみ』
「はい。おやすみなさい」

 通話を終えても、しばらくスマホを置かずに持っていた。……というより、ボーッとして固まっていた。

 少しして、おもむろに画面に指を落とす。着信履歴を開くと、登録したばかりの彼の名前が一番上に表示されていた。
 それを見て、改めて繋がっているのだと実感する。

「もう……信じられない」

 私はビーズクッションに身体を預けるなり、脱力して無意識にそう零していた。
< 34 / 144 >

この作品をシェア

pagetop