■王とメイドの切ない恋物語■
部屋のノブに手をかけた、その時、向こうからトーマ様が歩いてくるのが見えた。

トーマ様…

本当は、このまま気が付かないふりをして、部屋に入ってしまいたかった。

でも、逃げないって決めたばかりだ。




私は笑顔で、おじきした。

トーマ様も、笑顔で会釈してくれた。

「リリア。昨日は、ありがとう」

「いえ、お役に立てて、うれしかったです」

私は、最高の笑顔を見せた。

トーマ様には、暗い顔の私より、笑顔の私を見てほしい。

ふと、トーマ様が、私の手元の花を見た。

さっきまで笑顔だった、トーマ様の顔が、少し曇った気がした。



え?

なに?

この、エリックにもらった花を見たから?

この花、一体なに…?


「では」

トーマ様は、すーっと、去っていった。

後には、なんだか、物悲しさが残った。




私は、部屋に入って、辺りを見渡した。

花瓶がなかったので、ガラスのコップに花を生けた。

薄いピンクの、ふわふわっとした感じの花。

茎は細く、丸い葉っぱが、いくつかついていた。

かわいい花だな。

私は、窓際にそれを飾り、見つめた。

その花を見つめていると、心が、ほんわり暖かくなった。

ありがとう、エリック。

私は一呼吸おいて、仕事の準備にかかった。
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