■王とメイドの切ない恋物語■
「トーマ様!」

私は顔を上げた。




トーマ様は、フラフラしながら、人込みをかき分け、皆の一歩前に出てきた。

包帯には、血がにじんできている。


「王、まだ動くのは無理です!お戻りください!」

側近達が、トーマ様を止めに入った。

「いいから、下がれ」

「しかし!」

「下がれ」

側近は、苦しい表情で下がっていった。



「はぁっ はぁっ」

トーマ様の額に、汗がにじむ。



トーマ様、トーマ様。

起き上がるのだって、かなり辛いはずなのに、私を心配して、ここまで来てくれたの?

私の目に、涙がにじんでくる。



「トーマ様、私はいいんです!来ちゃダメ。トーマ様が刺されたりしたら、私…生きていけないよ…。だから戻って!」


「嫌だ」

トーマ様は、動こうとしない。




私は、涙声で叫ぶ。

「私のことなんて、どうでもいい!トーマ様が、無事ならそれでいい!来ないで!早く戻って!」



「リリア、お前は、俺の命より、ずっと大切だ!戻るわけにいかない」



皆、静まり返って、私達の叫びを聞いている。

チチリさんは、ジュリアを抱きしめ、涙を流し、こっちを見ていた。


トーマ様が、また一歩、前に出た。

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