■王とメイドの切ない恋物語■
男の人は、焦る私を見てニコリと笑い、

「私は、トーマ。見かけない顔だな。ここで何をしているんだ?」

優しい声が、聞こえてくる。

はっ!そうだよね、こんな所でフラフラしていたら、思い切り不審者だよね。

私は、その王子様みたいな青年に、緊張した面持ちで、答えた。

「あの、今日から、ここでメイドをやらせていただきます、リリアと申します。あまりにお城が大きすぎて、入り口がわからなくて、うろうろしていました。申し訳ございません」

トーマ様は一瞬、目を見開いたかと思うと、すぐまた、優しく微笑んだ。


え?私、なんか変なこと言ったかな?

「あはは もういいよ。そうか、リリアか。あちらが、入り口だよ。がんばりなさい」

そう言いながら、トーマ様は去っていった。

私は、その気品ある後姿を眺めながら、完全に舞い上がっていた。

ちょっと、ちょっとーーーっ。あの、かっこいい人は、誰なの???あんな格好しているから、きっとえらい人なのだろうな。優しそうな、人だったな。また会えたらいいな・・。


私は、トーマ様の姿が見えなくなると、どうにか胸の高鳴りを抑え、深呼吸して、お城に入っていった。


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