【短】エリュシオン
「美緒さんっ!」
「あ、慧くん」
待ち合わせ場所は新しく出来た、森林公園を思わせる、ミストの出る機械が搭載されたビルの街路樹沿いのベンチ。
木陰とほんのりアロマの効いたミストが心地良い。
その場所にほんの数分早く着いた私は、すぐに聞き覚えのある声に、名前を呼ばれた。
彼の今日の格好に、ちょっとびっくりする。
黒のスキニーパンツに、白のTシャツ。
その上に柄のオーバーサイズのシャツを合わせてる。
学校では有り得ない…というか、今までの彼からしたら有り得ない、ファッションコーデ。
その姿を見ただけで、
『あぁ、私のために頑張ってくれたんだ…』
と、なんだか胸がむず痒くなる。
「えっと…こんにちは?」
「ぷっ、なんでそこ疑問形なの?」
「や、なんか…ね」
そう言って、少し下を向いた彼のまつ毛の長さに、また、胸がむず痒くなった。