【短】エリュシオン


「今日は、その…宜しくお願いします…」

「ふふふ。こちらこそよろしくね?」


我ながらぎこちないスタートだなとは思いつつ、それでも彼の前では何故か素直になれる。



そして、なんとなく手を繋ぐタイミングを探っていると、隣で歩き始めた彼が、スッと私の手を引いた。


正直、あまりにも自然な行動に柄にもなく照れてしまい、かなり動揺している自分がいた。


慧くんて、やっぱり男の子なんだな…。


そう思ったらなんでか顔が熱くなって、まだ会って10分も経たないというのに、なんとなく早く帰りたくなった。



「美緒さん、俺の好きな映画で本当に良かったの?」

「…?なんで?慧くんとは好みが合うから、私は全然構わないけど?」

「そっか。それなら良かった。結構マニアックなやつだから、無理だったら遠慮なく言って?」


さり気ない優しさ。
私は、ワンピースの胸の辺りを、繋いでない方の手で掴んで、小さくこくん、と頷いた。



優しい優しい、彼氏。
少しだけ歪な…私の中でだけ揺らいでいる、関係は、彼の知らない所でチリチリと痛みを引き起こす。




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