【短】エリュシオン
異性と一緒にいて、こんなにも甘酸っぱいような、ふわりと浮いているような気持ちになったことはない。


そんな記憶は一切ない、どこにもない…。


たった一つの、彼の言葉だけで、私の灰色の世界は色を付ける。


たった一つの、彼の行動だけで、私の凍った心が鮮やかに彩られる。


『好きです』


あの言葉は、今じゃとても口には出来ない。
それを口に出してしまったら、もう…自分が自分じゃなくなってしまうから…。


そんなことを思っていたら、いつの間にか意識が飛んでしまい、気付いた時には映画は終盤を迎えていた。


そして、そこから少ししてエンドロールが流れていくと、幾人かが急かされるようにして席を立っていった。

私は、最後だけの美味しい所を観ただけで、登場人物たちに感情移入してしまい、目頭が熱くなっていた。


映画は、その余韻に浸る時が一番至福かもしれない。


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