イジワル御曹司は偽のフィアンセ様❤︎
3 初めてのキス

上司がいきなり私の彼になってもいいと言われたらなんと答えるのがいいのだろう。

もちろん“偽”の彼ですが……なんて呑気に語ってる場合ではない。

「な、何を言ってるのかわかってますか?」

予想もしていなかった言葉に私は、目が点になった。
だが、当の本人である専務は、真顔で頷く。

「わかってる」

いやいや、こんなのあり得ない。ここは丁重にお断りするべきだ。

「神谷さんのご好意は大変ありがたいのですが、お気持ちだいただきます」

深々と頭を抱える私の頭上で「は?」と呆れた声が聞こえた。

顔をあげると、呆れ顔の専務と目が合う。

「いいかよく聞け。俺が思うにこの画像の男は君を絶対に気にいる」

「あ、あの……その根拠がよくわからないのですが」

専務は額に手を当て項垂れた。

「お前は変わってないな」

それは褒め言葉?

「よく言われます」

専務は更に大きなため息を吐いた。

「でも、その言葉の意味を君はわかってるのか?」

どう考えたってあれしかない。

「わかってます。今も昔もずっと真面目が長所であり短所なんです」

専務は頬杖をついて小さくため息を吐く。それは他にもあると言っているようで、なんだか落ち着かない。

だが専務が口にした言葉に私は目が点になった。

「綺麗だよ」

き、綺麗? 私にはそう聞こえた。とうとう耳が悪くなったのかと思った。

「あ、あの……今何を?」

「聞こえなかった? 綺麗だって言ったんだけど」

同じことを言わすなと言わんばかりの投げやりな言い方をする専務。

「専務って普段メガネをかけてます?」

「何が言いたいんだ」

「いや、私を綺麗だっていう人初めてなんで、視力が悪いのかと」

「あのな〜」

相当呆れ返っているのか、専務は今日最大のため息を吐いた。
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