契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 でもそのどれだとしても、とても耐えられそうにないと晴香は思う。聞いてしまったら、彼の妻を演じ続けることができなくなる。
 聞いてはいけない。
 聞きたくない。
 たまらずに晴香はバスローブの孝也の胸に飛び込むように抱きついた。
 聞きたくない、何も。
 あなたの身体だけ手に入れて、それで満足だと思える私のままでいさせて。

「晴香…?」

 孝也が戸惑い、晴香を呼ぶ。
 その唇が、言葉を紡ぎ始める前にと、晴香は背を伸ばして自らの唇でそれを塞いだ。

「ん…」

 背の高い孝也の首に手を回して、少し戸惑う彼を一生懸命に誘惑する。
 何も言わないで、そのまま私を抱いてほしい。
 愛されないまま愛する人のものになる。その先になにがあるのかわからなくて怖いけれど、彼の口からなにかを聞くより、マシだと思う。
 いつもみたいに偽りの行為で晴香を魅了して、そしてなにもかもわからなくして…。
 そうでないと自分は前には進めない、あの闇に一歩踏み出すことはできない。
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