契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「晴香?」

 孝也が眉を寄せて問いかける。
 その表情に突然現れたくせに理由を言わない晴香に、彼が苛立ちを感じているのかも知れないと晴香は思う。仕事の邪魔になるから、今すぐ帰ってほしいと思っているのかも…。
 だが孝也の口から出たのはそれとは真逆の言葉だった。

「大丈夫? 晴香がここまで来るなんて、よっぽどのことなんだろう?」

 晴香の胸が熱くなる。
 そう、いつも彼はこうやって晴香のことを一番に考えてくれていた。
 いつもいつも優しかった。
 晴香は無言で首を振ると、涙を堪えて彼を見つめた。

「晴香…?」

 夜景を背に少し首を傾げて晴香を心配そうに見るその眼差し、生まれつき少し茶色い髪、それから落ちついた低い声。
 そのすべてを心から愛おしいと晴香は思う。
 晴香はたまらずに、足早に孝也に歩み寄るとその大きな胸に飛びくつように抱きついた。

「晴香…?」

 なにも言わずに突然抱きついた晴香に、孝也が戸惑い問いかける。
 晴香は彼の胸に顔を埋めたまま、しばらくは答えることができなかった。
 この胸の中にある想いを、彼を愛おしいというこの気持ちをどう表現していいかがわからない。
 それでも久しぶりに感じる彼の温もりに励まされるように口を開いた。
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