契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 晴香は動きを止めて孝也を見る。
 そして、落ち着き払って座ったままの孝也が発した言葉の意味を一生懸命考える。でも、残念ながらまったく理解できなかった。
 家からここまでは孝也の車で直接来た。それは絶対に間違いない。
 でも孝也は、晴香はもうすでに部屋を見たのだと言う。まったくもって理解不能だった。
 晴香は言葉を返すこともできないままに、ただぽかんと口をあけて彼を見つめる。
 そんな晴香とは対照的に、孝也はあくまでも冷静で、しかもなぜか少し楽しげだった。

「晴香はもう部屋を見たよ、ついさっき。隅から隅まで俺が案内した。すごく気に入ってたじゃない、最高だって言って」

 隅から隅まで?
 ついさっき…?
 そう言われて、思い当たる部屋はひとつしかなかった。
 でもまさか…。
 晴香は信じられない、ありえないと心の中で唱えながらも、今の孝也の言葉から導き出されるただひとつの答えを口にした。

「孝也が紹介したい部屋って、……もしかして、ここ?」

 孝也がにっこりとして頷いた。
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