契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「ルームシェアはダメだよね。…じゃあ晴香がここに住むためにはどんな理由があればいい思う?」

 孝也は、まるで学校の先生のように優しく晴香に問いかける。
 そういえば孝也は学生時代、学習塾で講師のアルバイトをしてた。わかりやすい授業で塾生に人気の先生だったと健太郎から聞いたような。
 でも今彼が出した問題は、難しすぎてとても解けそうにないと晴香は思う。
 晴香と孝也が、ここで二人暮らしをするのに、皆が納得する理由なんてこの世に存在するのだろうか?
 孝也が、晴香の口から答えを引き出そうとするように、わずかに首を傾げた。そして少し熱を含んだような、期待のこもった視線を晴香に送る。
 晴香は思わず目を伏せた。
 どうしてかはわからないけれど、突然彼をまったく知らない人のように感じて。
 弟みたいな幼なじみ、誰からも尊敬される副社長、そのどれでもない彼の顔を見てしまったような…そんな気がして、晴香は罪悪感にも似た気持ちを抱く。
 はたして、"姉"である自分が、今ここで彼とこうしていてもいいものなのだろうか。
 晴香は彼から視線を逸らしたまま、掠れる声を絞り出した。

「わ、わからない」
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