契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 やっぱりマンションで感じたとおり、孝也は女の子に飽き飽きしているのかもしれないという考えが晴香の頭をよぎる。
 もしかして私って、女の子避け?
 晴香が孝也をチラリと見ると、彼はバツが悪そうに目を逸らした。

「それにしても、噂の久我君の相手がまさか晴香先輩だとは…ふふふ、みんな悔しがるだろうなぁ」

 美紀の口はまだ止まらない。何やらいろいろ思い出しながら、嬉しそうに笑った。
 晴香は首を傾げた。

「噂の?」

 美紀が内緒話をするように晴香の方へ身を乗り出した。

「久我君の歴代の彼女の話では…」

「美紀」

 今度は健太郎が美紀の話を遮った。

「お前の話は噂ばっかで信憑性がない」

「そ、そんなことないわよ」

 美紀は口を尖らせる。健太郎が眉を寄せた。

「いーや、そうだ。この前も…」

 晴香が孝也を盗み見ると、話題がそれたことに安堵したのか小さく息をはいている。
 健太郎は美紀以外に浮いた話は聞かなかったけれど、どうやらこっちの"弟"にはいろいろありそうだと晴香は思う。
 いやそもそも今までだって、いろいろあるだろうとは思っていた。でもそれが取り立てて気になるということもなかったのに。
 今はなぜか少し違って思えるから不思議だった。
 噂の相手とはいったいどういうことだろう。それに元カノの話というのは…?
 晴香の視線に気づいた孝也が、軽く咳払いをして立ち上がる。

「じゃあ、俺たちこれから荷造りをするから。晴香、行こう」

 そう言ってリビングを出ていく背中を見つめながら、晴香の胸がちくりと痛んだ。
 普通の夫婦ならば、過去の話など気楽に聞くことができるはずだ。
 噂ってなんのこと?
 でも晴香にそれができないのは、ふたりがそういうことはぬきの、お友達夫婦だから。晴香は複雑な気持ちを抱えたまま彼の後に続いた。
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