契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 そして夜には、孝也の両親が住むマンションへ行き、同じように報告した。

「俺たち、結婚することにしたんだ」

 緊張で少し震える晴香の右手をテーブルの下でぎゅっと握って、孝也は両親に報告した。
 それに対する両親の答えは、ちょっと予想外なものだった。

「やったじゃない! 孝也。小さい頃の夢が叶ったのね」

 孝也の母親はそう言って喜んだ。

「え?」

 困惑する晴香に孝也の母は身を乗り出して話を続ける。

「晴香ちゃん覚えてない? 保育園の頃、この子七夕の短冊に書いたのよ。"はるかちゃんとけっこんしたい"って」

 晴香は首を傾げる。
 もちろん覚えているわけがない。その頃は晴香だって孝也と同じくらい小さかったのだから。
 孝也が苦々しい表情で母親の話を遮った。

「…そんな昔話しないでくれる?」

「あらいいじゃない、うるさい子ね。それにしても嬉しいわぁ、孝也のお嫁さんが晴香ちゃんだなんて。孝也のことよろしくね」

 ニコニコとして晴香の母と同じことを言う孝也の母に、晴香はホッと息を吐いた。
 二つの家族に受け入れられて、ようやくこの時、晴香の心にこの結婚を正解だと思える安心感が芽生えた。
 恋愛感情ぬきのお友達婚。
 それでもきっと幸せな家庭が築けるはず…。
 けれど父親の方が何気なく言った次の言葉が、その晴香のその確信をいとも簡単に覆した。

「それであのマンションにふたりで住むつもりなのかい? 子供ができたらどうすんだ?」
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