契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 フライパンの中のチキンライスをかき混ぜながら晴香はすうっと息を吸う。バターとケチャップのいい香りが晴香の鼻をくすぐった。あとはこれを卵で包めば、晴香特生オムライスの完成だ。
 冷蔵庫の中にすでにサラダはセットしたから、孝也が帰ってきたら、すぐにでも食べられるようになっている。
 帰り際、夜ご飯はどうするのかと尋ねる晴香からのメッセージに、孝也からは家で食べたいと返事があった。
 だからこうして作って待っているというわけだ。
 学生の頃、母が仕事でいないことも多かった北見家では、夜ご飯は晴香の担当だった。よく家に来ていた孝也も一緒に、三人で晴香の料理を食べたっけ。たしか孝也はオムライスが好きだったような…。
 そんなことを思い出して今日はオムライスにしたのだけれど、ちょっと子供っぽいメニューだったかな?
 少し心配になったとき、玄関の方で音がした。時刻は午後八時半、孝也が帰ってきたのだろう。

「お、おかえりなさい」

 パタパタと足音を立てて玄関まで行き、晴香は彼を出迎える。孝也が靴を脱ぎながら嬉しそうに微笑んだ。

「ただいま。…いい匂いがする」

「ご、ご飯作ってあるんだけど」

 どぎまぎしながら晴香は答える。
 "今まで通り、今まで通り"と胸の中で唱えながら。

「本当? 嬉しいな。うーん、この匂いは…オムライス?」

「…正解」

 やっぱり子供っぽいメニューだったかなとチラリと見ると孝也がにっこりと微笑んだ。

「晴香のオムライス、久しぶりだ」
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