契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 孝也はそう言って立ち上がると、キッチンへ行って冷蔵庫からペットボトルの水を出す。そしてキャップを開けて晴香に差し出した。

「あ、ありがとう」

 晴香は水を受け取ってこくんとひと口飲む。冷たい水がアルコールで少し火照った身体に染み渡るようで心地よかった。
 それをジッと見て、孝也が口を開いた。

「晴香だって付き合いがあるんだから、そんなことで謝る必要はないんだよ。やれる人がやれることをやろうって話したじゃない」

 確かに、ふたりで暮らし始める前に家事の分担については話をした。孝也がもともと使っていたハウスキーパーを活用しつつ、無理のないように協力しようと。
 両親が共働きで、しかも母親がバリバリの管理職である家庭で育った孝也からしてみれば当然のことなのだろう。
 だが晴香は他のことはともかくとして食事だけは出来るだけ自炊したものを食べてほしいと思っていた。

『食べたもので身体はできている』

 というのが母の教えで、だからこそ晴香は腹減らしの健太郎におやつではなく下手でも何かしらの物を作って食べさせていたのだ。
 激務をこなす孝也の食事が外食やコンビニの物だけというのは心許ないように思う。
 彼が家で食事をとれる日は限られている。でもだからこそそういう日は晴香が予定を合わせてでもちゃんとしたものを食べてほしいと思っていた。
 そんなことを思いうつむく晴香を孝也が覗き込んで微笑んだ。

「もちろん俺だって、ご飯があると嬉しいよ。晴香のご飯、うまいもん。たとえば…ラーメンとか」
< 98 / 206 >

この作品をシェア

pagetop