契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 ちょっと馬鹿にしたような孝也の言葉に、晴香は顔を上げて彼を睨んだ。

「ラ、ラーメンなんて誰でも作れるじゃない」

 ラーメンは、学生の頃に晴香がよく作ったメニューだった。料理ともいえない鍋で煮るだけの袋麺だが、そういえば孝也にせがまれてよく作ったっけ。
 でもいくらなんでも、夫婦になった今夕食に作るメニューではないと思う。
 孝也がはははと笑って膨らんだ晴香の頬を突いた。

「本当だって。俺、晴香のラーメンめちゃくちゃ好きだったんだ。べつにラーメンくらい自分でもできるんだけど晴香はいつもそのままじゃダメだとか言って、卵を落としたりネギを入れたりしてくれてさ。それが妙に美味しくて。…なんか思い出したら久しぶりに食べたくなってきたな。晴香、明日のお昼はラーメンにしよう」

 無邪気にそう言って笑う孝也に、晴香の胸がキュッとなった。
 こんなところは昔のままの孝也なんだ。
 たくさんの思い出を共有する、唯一無二の幼なじみ。
 晴香が彼に複雑な想いを抱いていることなどまったく知らない安心しきった微笑みに、こんなにも胸が高鳴るのは、きっと久しぶりに飲んだアルコールのせいだろう。

「ダ、ダメよ、ラーメンなんて栄養が偏るじゃない」

 頬の火照りをごまかしたくて、晴香は首を振ってそんなことを言ってみる。
 すると突然腕を引かれて、孝也にぎゅっと抱きしめられた。

「きゃっ!」

 声をあげて身をよじるが、逞しい大きな腕は晴香を囲い込んで離さなかった。
 強くなったシトラスの香りに晴香の身体は、否が応にも熱くなる。これもきっとアルコールのせいだと晴香は自分自身に言い訳をした。
 すっかり赤くなった晴香の耳に孝也が唇を寄せて囁いた。
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