ふたつの羽根

呆然とするあたしの隣で拓真先輩はチッと舌打ちをしポケットからタバコを取り出す。 


口にくわえて火を点ける拓真先輩とは逆に、陸は地面にタバコを押しつける。


「里奈」


立ち上がって、あたしの所まで来る陸にハッと我に返り、あたしは慌てて体を後ろに向け階段を掛け降りる。 


「おいっ、里奈」 


背後から聞こえる陸の力強い声を無視して一気に階段を掛け降り、中に入って自分の鞄を掴み取る。


「里奈、待てよ」


咄嗟に掴まれた腕を勢いよく払い「誰…あの人?」と震えた声を腹の奥から出した。 


「知り合い」


小さく呟かれた陸の目は、あたしから避けるように逸らし小さくため息をつく。 


知り合いなわけがない…

知り合いなわけが… 


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