ふたつの羽根
「残念。俺の女」
…えっ、俺の女。
拓真先輩の?
わからない。どうして、この人の前で本当の事を言わないのか…
目線を陸の方向に向けると、顔をしかめながらポケットから手を出す。
その手に握られているのはタバコとZippo。
陸はその場にしゃがみ込み1本のタバコをくわえて火を点けた。
深く吸い込み下を向きながら煙を吐く陸に、あたしの眉は寄る。
陸…何か言ってよ。
ねぇ、陸?
この人は誰?
いくら心の中で叫び続けても陸の心には届くわけがない。
「そう…」
彩乃さんは短く返し「今日は帰るわ」と拓真先輩見たあと、しゃがみ込む陸に目を向けた。
「じゃあ、またね陸」
彩乃さんはヒラヒラ手を振りながらピンヒールのカカトをカツカツと響かせながら姿を消した。