お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 そう、凛子がどんどん広い世界で活躍し、俺の手の中ではまったくおさまらない人になっていくのは、納得だけど、少しだけ寂しい。
 せめて家の中だけでは俺だけの凛子でいてほしいと、そう願わずにはいられない。
 結納を交わしてもなお、こんな大人げない独占欲があることを知ったら、彼女はきっと呆れて笑うだろう。
「凛子、もう少しこっちにおいで」
「わっ」
 寝転がりながら、彼女の背中を抱き寄せちゅっと軽いキスを唇に落とすと、凛子は「いつも突然すぎます!」と焦ったように注意してきた。
 必死な彼女があまりに可愛くて、もうひとつ深いキスを落とすと、凛子は激しく抵抗した。
「あっ……、こ、こんなことしてたら寝坊しちゃいます」
「大丈夫、明日の準備は完璧だ。大事な日だからな」
「んん、高臣さっ……」
「愛してる、凛子……」
「ダ、ダメですっ」
 服に手をかけると、とうとう凛子がしびれを切らして俺の肩を押した。
 十分本気だった俺は、額にキスを落として怒っている凛子をなだめたけれど、彼女は不満げな顔だ。
「お、思い出して集中できなくなったら大変なので……!」
「ふ、分かった。今日は寝ようか」
 ……凛子にはバレていないようで安心したけれど、じつを言うと明日のことは結構緊張している。
 仕事では一度も緊張なんてしてことはないし、ましてや凛子のご両親には事前に結婚をお伝えし、快い返事をいただいているというのに。
 俺はそんな自分を一ミリも彼女に悟られないように、余裕の笑みを浮かべて彼女に布団をかけた。
 本当は、今すぐにでも結婚届を役所に提出しに行きたいところだが、出会って丁度一年目の春に結婚をしようということになった。
 凛子の仕事も、そのころには慣れて落ち着いているであろうということもあり、彼女のご両親も賛同してくれた。
 結婚がゴールということではないけれど、春には凛子が正式に妻になってくれるのだ。
 ――人生ではじめて"欲しい"と思った人が、生涯の伴侶となる。
 もちろん嬉しい気持ちがほとんどだが、責任と不安も感じる。
 凛子を愛しぬく自信も、生きていくうえで苦労はさせない自信もあるが、彼女が心から幸せだと思える日々を俺はちゃんと守り抜けるだろうか。
 今ままで勉強や仕事をロボットのようにこなしてきただけの俺が……。
「高臣さん、明日はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
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