お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 冷蔵庫に入っていたおやつのおはぎをひとつもらって、私はばくっとそれに食いついた。
 粒がしっかりとした上品な甘さの餡子は、ねっちりとしたもち米と相性抜群だ。
 一気に幸せな気持ちになって夢中で食べていると、永亮が怪訝そうな顔で聞いてくる。
「で、何があったんだよ。しょうもねぇ痴話喧嘩だったら聞かねぇけどな」
「全然違うよ……。軽く職場で修羅場になって」
「は? なんだそれ。面白いから聞かせろ」
「全然面白くないわ!」
 そう言いつつも、こんなことを話せるのは井山さんと全く関係のない永亮くらいだ。
 高臣さんや岡田さんには話しづらい……。
 今日の終礼で、家業である高梨園を百貨店にオープンすることになったことを伝えたが、岡田さん以外のパートの人は皆ざわついていた。
 あの冷ややかな空気感は、井山さんが何かを吹き込んでいたのかもしれない。
 どう考えてもタイミングが悪すぎた……。
「……なるほどな。高臣さん、色んなところで人の感情乱しすぎだろ。自分がどれだけ影響力あるのか分かってねぇんだな」
 すべてを聞いた永亮は、ハハッと乾いた笑みを浮かべて、私の不幸を面白がっていた。
 予想でき過ぎた永亮の軽い反応に、私も同じように笑みを返す。
「で、お前は何に迷ってるわけ?」
「高臣さんの評判が下がらないか不安で……。もう社内では、私が高臣さんをたぶらかして家業も助けてもらい、超スピードで成りあがったしたたかな女になってるので……」
「高臣さんが騙されてる……的な?」
「そう、哀れ的な……」
「哀れ」
「ねぇ笑ったよね今?」
 ダメだ。こんなやつに相談しても解決するわけがない。
 これは自分自身で解決しなきゃいけない問題。
 あの職場で働いて数年、普通に仲良くしてくれていたパートのおばさんたちが、私を見る目をコロッと変えたのは、少しこたえたけど……。
 でも、そんなことはどうでもいい。
 高梨園二号店のオープンに関わるような悪い噂をもし流されたりしたら、私のせいだ。
 ふと気になって、私は先日インタビューされたネット記事を開いてみる。
 『老舗和菓子屋、堂々銀座に開店。新境地を切り開くのは若き女性』という、大げさすぎるタイトルでちょこっとまとめサイトに載った記事だ。
 なんとなく嫌な予感がして、そのコメント欄を見てみると、一時間前にとあるコメントがついていた。
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