俺様社長と溺愛婚前同居!?
今日の材料はいつも以上に多くて、キャリータイプのバッグに野菜や肉を詰め込んで歩き出す。最寄り駅を出て、会社までの道のりを歩いていると、道路に停車していた車がクラクションを軽く鳴らした。
「結花さん!」
「あ、櫻井さん」
窓を全開にして、私のほうに手を振っているのは、シンクフロンティアの専務、櫻井さんだった。
いつも敬語で、丁寧で、優しい櫻井さん。メタルフレームの眼鏡がよく似合うイケメンだ。
「今日は一段を荷物が多いですね。乗ってください」
「いや、でも……」
「気にしないで、行くところは同じなんだから」
櫻井さんは朝から取引先に出向いていたそうで、社用車で出ていた。その帰りに私を見つけたので声をかけてくれた。
勤務中だから悪いと言ったにもかかわらず、気にしなくていいと言って櫻井さんにキャリーケースを奪われる。
そういうわけで、大荷物の私を拾って、車でシンクフロンティアのビルまで走りだした。
「毎回大変ですよね。大人数の料理の材料なので」
「そうですね。でも大丈夫ですよ。帰りは軽いですし」
「皆の胃袋に入るからね、確かに」
何気ない会話をしているうちに、ビルの地下駐車場に入っていく。シンクフロンティアが契約している駐車スペースに到着したところで、車のエンジンが切れた。
「乗せてくださって、ありがとうございました。じゃあ……」
そう言って、シートベルトを解除したところで、運転席にいた櫻井さんが私の手を掴んだ。
その力が予想以上に強くて、驚いて目を見開いた。