行き着く先は・・

••そっと重ねる


修吾も茜も本当にびっくりした。

希空が言っていた秋山さんが
秋山 修吾だったとは。

修吾自身も驚きが隠せなかった
希空の働き方や真剣さを見て
当時の茜を思い出していたから。

「あの時は、本当にすまなかった。」
「当時は、本当に苦しくて
辛かった。
だけど、昔の事です。」
「言えなかったんだ。
あんなに瞳を輝かせて花と接する茜に。
イタリアでうまく行くか
わからない不安定な私に
全てを捨てて付いてきてくれとは。」
「あの時、貴方がそう言っていたら
私は迷わず付いていったでしょう。
だけど、きっと私らしさは
失っていたと思います。
今だから、言える言葉ですが
私の事を考えてくれて
ありがとうございました。」
と、頭を下げると
「クスッ、やっぱり茜は変わらない。」
と、言う修吾に二人で笑いあった。
修吾から、
「ご主人は亡くなったの?」
と、訊かれて
「希空が小さいときに事故で。」
と、言い
「秋山さんの奥様は?」
と、訊ねると
「亡くなった。」
と、酷く辛そうに言った。

茜は、あまりにも辛そうな
修吾の手に自分の手をそっと添えた。

修吾は、びっくりしたが
茜の手の上にもう片方の手を乗せて
「私は、妻を愛する事が出来なかった。

彼女を無理矢理イタリアに
連れてきて放置した。
仕事に逃げ、仕事に没頭した。

息子が生まれてからも
それは変わらなかった。
愛するわけでもないが
子供がいたらと数回抱いた
愛情なき抱きかただったとおもう····

妻は、段々と壊れて行き
息子にも言われたが
その時には、自分のしたことが
怖くなり、さらに逃げた。

妻は、病院に運ばれたが
目を覚ますことなく
この世を去った。

息子は、そんな俺を
飽きれ嫌い、会話もない。
まして親だとも思っていないと。
情けないだろう。
そんな息子に声もかけれないんだ。」
と、悲壮な顔で話す修吾に
茜は、驚きを隠せなかった。

茜の知る修吾は、
茜を愛し大切にしてくれて
夢に共感してくれて
一緒に励ましてくれたり
悩んでくれたりと
いつも寄り添ってくれた修吾が····と。

奥様も息子さんも
修吾自身も辛かっただろうと
思っていた。
「大丈夫なの?」
と、訊ねると
「自分がしたことだからね。
茜と別れてずっと一人だ。」
と、言う修吾を
茜は、堪らない気持ちになる。

私の事を考えて別れ
別の人を選んだ修吾。

奥様の事を思うと
息子さんの事を思うと
許されないかも知れないが
こんな修吾を一人に出来なかった。

茜は、
「私は、自分だけが辛いと思っていた
でも、修吾も辛かったんだね。」
と、言うと修吾は顔を上げて
ハッとしながら涙が溢れた。

茜は、そっと修吾を立たせて
レストランを後にした。
個室であったので
修吾は、会計をして
茜と一緒にでた。

レストランは、修吾の店であるが
私用と区別をしている。
茜は、修吾らしいと
思いながら
二人で歩いた。

茜は、修吾の腕に自分の腕を
絡めた。
修吾は、びっくりしたが
「いいでしょ?」
と、微笑みながら言う茜に
「二度、触れて貰えないと
思っていた。」
と、言いながら
茜の手にそっと手を重ねた。

歩きながら
二人で色んな話をした。
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