介護士は恋をした
湊が咲良に手を重ねられながら書いた「輝」という字はさっきとは比べものにならないほどだ。

湊は胸を高鳴らせながら咲良を見る。手はもうすでに離れてしまっていたが、まだ咲良の温もりが確かにあった。そしてそれが、さっきの出来事が嘘ではないと教えてくれる。

「山崎さん!その犬のマスコット可愛いですね。お孫さんがくれたんですか?」

「そうなのよ。私も気に入ってるの」

「遠藤さん!明日ご家族の方がいらっしゃるんですよね?楽しみですね」

「ああ。孫も来てくれるって言ってた」

咲良は入所者ひとりひとりと話をしていく。全員の話を、まるで自分のことのように楽しそうに聴いていく咲良に湊はまた惹かれていく。

その時、遠くの方から「暴れないで!」と悲鳴に近い声が聞こえてきた。笑っていた咲良は「ごめんね、ちょっと行ってくる」と入所者の人に言い、湊も立ち上がった。

声のした方に湊たちが向かうと、最近この施設に入所した人が杖を振り回している。それを先輩たちが必死になだめていた。
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