結婚から始めましょう。
「大きな声を出して申し訳なかった。けれど、私は結婚なんて全く考えていないので。あなたも知ってるでしょ?私が一度、結婚で失敗していることぐらい」

「それは、南田様より伺ってます。ですが、あなたの本心までは知ることができないので、こうしてお会いさせていただきました」

「本心?そんなのさっき言った通り、今の私は結婚なんて全く考えてない。良い暮らしをさせたくて一生懸命働いた結果が、浮気ですよ。馬鹿らしくなってくる」

ということは、お相手は専業主婦でもよいということかと、心の中でメモをする。いや、〝よかった〟という過去形かも。

それにしても、相手の為にと身を削って頑張った結果が浮気だなんて、相当辛かったはず。だからこそ、数年経っても再婚を考えようとせず、こうして牙を向くのだろう。

「純也さんが、こうして今でも苦しみ続けているとは知りませんでした」

「え?」

だめだ。仕事だというのに、相手の背景に感情が揺れそうだ。涙が滲みそうになる目にぐっと力を入れて、純也と目を合わせた。

「相手の為に身を粉にして働いたことを否定された。あなたのこの怒りも、当然のことだと思います」

「……ええ、まあ」

少しずつ純也の眉間のシワが消えていく。本来この人は、こんな哀しい顔なんて似合わない人だと思う。



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