結婚から始めましょう。
店内は上品な煌びやかさが広がっていて、まるで夢のような空間だ。
案内されたのは、窓際の特等席。席と席との間はかなり離れているし、観葉植物なんかを上手く利用して、プライベートが保たれている。

54階という高さから見える夜景は、まるで宝石を散りばめたような美しさで、うっとりとしてしまう。

ここは、お祝い事があった時や、幸太郎と会うなど、蓮にとっては特別な時に使うのだと言う。
そんなところに、夫婦になった今夜連れてきてもらえたのはすごく嬉しい。


夫婦として初めての食事はすごく楽しくて、蓮に勧められるままワインまで口にしていた。
緊張と高揚感で浮ついて忘れてたけど、今夜ここへは車で来ていたはず。だけど蓮もワインを飲んでいるわけで……

「蓮さん、飲んじゃったけど車はどうするの?」

「ああ。今夜はここに部屋を取ってあるんだ」

「えっ……」

ここに泊まるなんて、全く考えてなかった。

「大丈夫。着替えとか必要なものは揃ってるから」

いや、心配なのは荷物とかじゃなくて……
きっと蓮もわかっているはず。こういうところで少しだけ意地悪な部分が出るのも、付き合いの中でわかってきたことだ。

「桃香、不安にならないで」

でも、こうやってちゃんとフォローもしてくれる。
私達はもう夫婦だ。蓮は私のことが好きで、私も蓮が好き。あとは私が覚悟を決めるだけ。

「うん」

蓮と視線を合わせると、小声で答えた。



< 77 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop