触らないでよ!〜彼氏に振られたその日、女の子(?)に告白されました〜
「珍しい。また澪ちゃんがいないのに来て」



水曜日、澪ちゃんが休みだとわかっていてSARASAに来てしまった。



「ケンカでもした?」



サラサさんが心配そうに首を傾げる。

今日はあのボランティアと呼ばれた男の人もいなくて、カウンターはサラサさん1人だけだった。



「ううん、澪ちゃんは卒論で忙しそうにしてる」

「あぁ、そういえば今月いっぱい休み増やしてほしいって言ってたわね」

「そうなの?」

「聞いてないの? 今月は月、水、木、日曜日って休みよ、澪ちゃん」



毎日、連絡は取り合うのにそういう話は一切出てこなかった。



「時間あるなら、こんな所に来てないで会いに行ってあげたら?」

「こんな所って、売上に貢献してるのに」

「アンタ1人分の飲み食いなんてたかが知れてるじゃないの」



ふふん、と鼻で笑って注文したグラスビールとソーセージが差し出される。

それをゆっくり飲んでいたらサラサさんがまた首を傾げた。



「ねえ、やっぱりちょっと変。
なんかあったんじゃないの? 澪ちゃんがいない日に来たってことは、澪ちゃんに関係あること?」



私がわかりやすいのか、サラサさんの勘がいいのか。

目の前のソーセージをいじりながら、どこからどこまで話していいのか考える。



「ーー澪ちゃんには絶対言わないでほしいんだけど、」

「なによ」



私たちしかいないカウンターで、前のめりになって距離を詰める。



「……澪ちゃんとしてから、澪ちゃんに触りたくてしょうがないの」



目下、私の中で大きくなっていた悩みはそれだった。
声を聞いたり直接会えば意識して緊張するのに、1人になると澪ちゃんに触りたくなる。

だから今は会えない。卒論発表会の準備で忙しい澪ちゃんにとって、ただの邪魔になるから。
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