線香花火が落ちたキミ


奥にあるトイレに到着すると、扉が開かない。


これは…


誰か入ってる。


ビールを飲むと、どうもトイレが近い。


漏らして店主に迷惑をかける前に、トイレに入りたい。


まだか、まだかと待っていると、扉が開いた。


出てきた女性にすみませんと軽く会釈し、


トイレに入った。


スリットの入ったタイトスカートに目が行き、


顔を見なかったが、とてもいい匂いがした。


あれは、いい女なんだろうな…などと思いながらトイレを済ましていたら、


ドンドンドンドンドン

すごい勢いでノックされた。

びっくりした僕は、早急にトイレへ出ると、


見知った顔が、いつもの倍うるさい顔で立っていた。


「びっくりした…。どうした?お前もトイレ?」


友人だと知って落ち着いた僕は、ため息を付きながら扉を閉めていた。


「今、片思い中の女の子から飲みの誘いの連絡がきた!!!!!」

そう興奮しながら詰め寄ってくる友人。

「呼んでもいいか?!」

「呼んでもいいけど、僕もうだいぶ酔ったから帰るよ。二人で行ってらっしゃい」

さほど酔ってはいなかったが、そう友人に告げると、嬉しいような悲しいような表情をしていた。

会おうと思えばいつでも会えるし、

このチャンスを逃したために、彼の恋路の邪魔をするのも…と思う半分、

少し一人、物思いにふけりたい半分だった。


「悪い…。また埋め合わせする!」

そう言って顔に手を合わせてる友人の手を握り、

「次は、お前の奢りな♡」

と満面の笑みで言い、カウンターへと歩き出した。


カウンターへと戻る途中、

座敷にいる前髪をかきあげてる髪の長い女性と



目が合った気がするが、



気のせいだろう。
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