シークレットガール
毎日が地獄だった。父親は私をいつも殴った。酔っ払うといつもそうだった。その暴力は日に日にエスカレートしていった。
殴るだけだった父親はついに私の体にも興味を持ち始めた。自分で言うのもなんだけど私の体はまだ未熟でありながらも充分、魅力的な体だった。つまり父親は私のことを自分の娘じゃなくて一人の女として私を見たのだ。
その後は説明しなくても分かるでしょう? 毎日毎日虐待される日々。それが耐えきれなくて私は家出した。
どこでもいいから私はあの家から、父親の与える暴力から逃げ出したかった。それだけを思い、走った。
そして私は当然ながらお金を稼がなくてはならなかった。未成年の私を雇ってくれるところはやっぱり中々見つからない。
そんな中、私は私を雇ってくれるという人を見つけた。喜んでついていくとそこには中年の男性がいた。その男性は「まだ若そうなんだけど本当にいいのか?」とちょっと不安げに聞いてきた。私をそこに連れてきた男は「はい、勿論ですとも。」と答えた。
それからその男は「それではごゆっくりどうぞ。」と言い、立ち去った。
それから私がされたのは口にするのも恥ずかしいことだった。正直言ってその頃の私はまるで深い闇に溺れているように思えた。それくらいとても苦しくて逃げ出したいと思っていた。
お金は稼げるが、私の体はどんどん快楽に侵されていった。その快楽が病みつきになって私から求めるようになるのにそんなに長くなかった。
でもそんなんじゃダメだと思った。そう、私は人間。尊い存在。でも当時の私は決して尊い存在なんかじゃなかった。ただ快楽を求め続ける獣でしかなかった。
だから私は全てが遅くなる前に抜け出すことにした。必死に走った。後ろを振り向くこともせずただ夜の街を走った。
警察署に入り、今までの出来事を話す。警察は速やかにあの一同を逮捕した。
やっと解放された。私はそう思った。ようやく私は幸せになれる。その期待は膨らんでいくばかりだった。
それから私はある児童保育施設に入ることになった。幸いにもその施設は私を優しく庇ってくれた。そのお陰で私は少しではあるけど希望を抱けた。
私は今でもその施設で暮らしている。とても素晴らしい日々。素晴らしい世界。初めて私はこの世界が素晴らしいと思えるようになった。
でも最近はそれと裏腹に実の母親に会いたいと思っている。実際にどんな人かはよくわからない。私が知っているのは母親が私を産んですぐ家を出て行ってしまったということだけ。
多分母親も辛かったのであろう。だから私は母親を憎んだりはしない。いや、憎みたくもない。
母親はどこで何をしているのだろう? いつか会いたいな。こんな風になってしまった今でもその気持ちは変わらない。
「悪いが、俺はそんなに暇じゃないぜ。」
彼はそう言って帰ろうとしていた。そんな彼に私は「人を殺す快楽を味わってみたくない?」と言いかける。
彼はそっと振り向く。少し驚いているような気もするが、そんなのはどうでもいい。そんなことより少し興味があるみたいだ。私が正しかったんだ。
人は誰だって一度は人を殺してみたいと思ったことはあるはずだ。誰もがやっちゃいけないと分かっているからその衝動を抑えているのだ。実は皆、私みたいになりたいのだ。実際にやってみたいと思っている。そうに違いない。
「とても気持ちいいんだよ。初めは見ているだけでもいいよ。私がじっくり教えてあげるからさ。その代わりに分かるでしょう? 私との約束が守れるならあなたにもその快楽を味わわせてあげる。」
私はそっと笑った。彼は少し怯えているように見えた。そんなに不気味だったかな? いつもより抑えているつもりなのになぁ。
「どう? 一度味わってしまうと病みつきになるくらい気持ちいいんだよ! あなたも感じてみたくない?」
「確かに気にはなるが、俺はリスクを背負ってまでやりたくはないぜ。」
彼はそう言い、立ち去ろうとしていた。私はそんな彼を挑発するような言葉をわざと言ってみた。正直自信があった。多分コイツは乗ってくれるだろう。
「あっそう。ならいいわ。別に私も無理強いはしたくないから。でもちょっとがっかりだなぁ。もう少し度胸あると思ったのにただ見栄を張っていたに過ぎなかったんだね。」
「その手には乗らないぞ。まあ、でも何かお前、勘違いしてるぞ。俺は見栄なんて張ってないぞ。」
「だからどうするの? もう飽きてきちゃったから早く選んでよ。本当に乗らないってことでいい?」
そろそろ飽きてきちゃったので私は返事を急き立てる。そうすると彼は「分かったよ。」とだけ言った。
「最初からそう言いなさいよ。」
私は軽く文句を言った。これで契約成立。一丁上がりってところかな。
「あなたはまだ人を殺してみた経験はないでしょう?」
「ないに決まってるだろう。俺はそんなに荒くれちゃいないぜ。お前の方が荒くれてんだよ。」
「そこまで言われる筋合いはないよ。私は荒くれてはいないよ。ただ検証をしているだけ。」
「はあ? 何の検証なんだよ。」
「私は思うんだ。人の命は本当に尊いのかって。その答えを見つけるための検証を私はしてるだけだよ。」
彼は空笑をした。多分呆れているのだろう。
「まあ、いいよ。それじゃ俺は帰るからな。」
彼はそう言い残して席を立った。私もそろそろ帰るか。そう思い、もうすでに温もりを失くした彼の死骸をバラバラに切り落とし、予め用意した鞄に入れた。そしてその鞄をスクールバッグに入れた。そしてその場を立ち去った。
< 3 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop