愛は惜しみなく与う⑦
『あ…ん』


名前を呼ばれた


人生で10回も名前を呼ばれてないと思う。


あんた、とか、貴方とか…


あたしのことをちゃんと見て名前を呼ぶなんて。



「は、母上」



なんであたしはこの人だけ分かったのか。


どうして思い出したくもない人だけ、分かってしまうのか。


あれか。
死ぬ前の、あたしの中にある後悔が、そうさせてるんかな。


後悔なんて…

してないはずやろ?


もう諦めたから




やのに、母上はなんであたしの名前を呼んだ?


頭がおかしくなりそうや


ぐるぐると分りもしない出来事が頭の中で駆け巡って、吐き気を催す


夢の中まで、あたしを苦しめなくてもいいのに。



『生きて、杏。あなたには…話してないことが沢山あるの』



……生きて?



「は?なんて?」


今この人はなんてゆうた?

あたしに生きろってゆうたん?


頭おかしいんとちゃうか。


ここは現実じゃないって分かってるのに、イライラする。なんで母上のことだけ覚えてるか知らんけど、今すぐ消し去りたい記憶。
< 238 / 404 >

この作品をシェア

pagetop