愛は惜しみなく与う⑦
今まで姿は見えて声も聞こえるけど、触れることができなかった。
実体がない人達

けどこの人は…


「さ、触れる」

『ええ、そうですよ、杏様。私です。温かいでしょ』


優しくみてくる目の前の人を知ってる。



「志木!!!!!」



その名前を呼んだ瞬間、世界が明るくなった。


今まで働いていた五感は、自分のものではないくらいに働く。

あたしに触れたその手は温かくて、身体が解きほぐされていく


『杏様、私が分りますか?』


志木の言葉に首が取れるくらいに頷く。
そんなあたしの様子を見て志木は笑ってあたしの髪に触れた。

志木の名前を呼んだ瞬間に一気に脳が晴れて、全て思い出した。


ボーッとした頭もクリアになり


全て思い出した



「あたし、死んだ?」



こうなる直前のことも思い出したねん。てゆうか、5日前くらいからの記憶は鮮明にある。

むしろ嫌なことも全部覚えてる。


あたしは、あの時足場が崩れた瞬間、向こう側に跳べるはずやった。

いつもなら跳べてた


けど左目の奥が痛んで頭に響いてしまって。


耐えられへん痛みで身体が動かせなかった。
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