愛は惜しみなく与う⑦
座りましょう

そう言われてあたしはベッドに腰をかけた

お父様なんてもう、久しく見ていない
顔も覚えてないくらいのひと。


「あの人は…貴方の父親は、今はブラジルに居ます。そしてもう…帰ってこないでしょう」


ブラジル…
なんでブラジルにいるん


「私は一般家庭の娘でした。むしろ少し貧乏だなと感じるような家で育って、必死に勉強をしました。大学には奨学金を借りて行って、そこそこの会社に入社した。

私はとても……ごく普通の女の子だったのよ」


母上はにこりと笑った

知らんかった
どこかのお嬢様やと思った。だってあまりにも振る舞いがそうやから。

この気丈な振る舞いは、昔から染み付いて離れないものやと思ってた。


「幸せになれると思った。誰もが羨やむ玉の輿ってやつで…あの頃は怖いものはないと思っていたの。でもね…私はあの人に愛されなかった。最初は愛されていたと思うの。でもね、あの人は私以外にも好きな女性がいたの。

私と結婚したのは、従順で文句も言わずなんでもあの人の為にして……そして使いやすい女だったからなの。」
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